近年、ダブルワークを考えている薬剤師は増えているのではないでしょうか?
「副業元年」といわれた2018年。
これには、政府が2017年に「働き方改革実行計画」の閣議決定や、翌2018年の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」発表された背景があります。
こうした時代の流れの中で、政府は副業を積極的に奨励するようになり、同時期に「モデル就業規則」から副業禁止規制が削除されました。
収入増加やスキルアップ、キャリア形成などのメリットが多いダブルワークですが、デメリットも覚えておかなければトラブルになりかねません。
本記事では、税金や保険など、ダブルワークを始める際に注意すべきポイントを薬剤師ならではの視点で解説します。
税金・保険に関する基礎知識から収入の有効活用方法についてまで、詳しくお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。
- ダブルワークの注意点
- ダブルワークに必要な手続き
- ダブルワークで注意すべき税金や保険関係
- メリットとデメリット
- ダブルワークで得た収入の使い方
コタロ
ダブルワークの注意点は3つ
ダブルワークを始めるにあたって、注意すべき点を3つにまとめました。
特に、社会保険に関する部分は複雑であり、社会保険労務士への相談が必要となる事例もあります。
事前にしっかり調べて、労働時間や収入額の制限に注意しましょう。
無理なく継続できる仕事を選ぶ
ダブルワークは、体力的・精神的に負担がかかりすぎないよう、無理なく継続できる仕事を選ぶことが重要です。
例えば、夜勤の仕事や時間管理に無理のあるスケジュールなど、健康を害するリスクもあるため避けた方がよいでしょう。
薬剤師は残業が多く、心身ともに疲労が蓄積しやすい職業であることを忘れてはいけません。
そこで、薬剤師がダブルワークを選択する際のポイントを以下に挙げてみました。
- 柔軟な勤務時間
本業の業務時間と被らない仕事がベース。短時間パートやシフト調整しやすいと体調管理の面からも継続しやすい。 - オンラインでできる仕事
ネット上で完結する仕事は特におすすめ。医療系ライターや薬の監修業務など、通勤時間ゼロでできる仕事を選ぶこと。 - ストレスの少ない仕事
ストレスのかかりにくい仕事を探すこと。
自分のペースで進められる、人間関係などのストレスが少ない仕事が副業に最適。
ダブルワークを考える際は、本業の労働環境や自身の余力について、しっかりと考えるのが重要です。
体力面・精神面の安定を守るためにも、無理のない範囲で継続可能なダブルワークの仕事を選びましょう。
両社(本業・副業)の就業規則を確認する
ダブルワークを始める際に、最も注意したいのが主勤務先と副業先、両者の就業規則を確認することです。
特に、調剤薬局や病院などの場合、就業規則の中に副業の許可・制限に関して記載している企業は少なくありません。
以下は、よく見られる就業規則の一例です。
- 副業の禁止
一部の職場では、副業を全面的に禁止されている場合も。 - 事前許可制
副業を始める前に、事前に職場の許可が必要なケース。
許可が得られない場合、副業は行えない。 - 競業禁止業規定
会社の利益や秘密保持を守るための規則。
競合や同業他社での副業が禁止されている企業も。
後々のトラブルを防ぐためにも、就業規則の内容を事前に問い合わせ、必要に応じて上司や人事部門などに許可をもらいましょう。
保険・税金関連は事前に確認する
保険や税金関連の手続きについては、事前に確認しておくことをおすすめします。
例えば、複数の勤務先から給与を得ている場合、副業先の所得は自分で確定申告を行うのが一般的です(※20万円を超える場合)。
保険関連の手続きは非常に複雑であり、正しく対応しなければ、税金の追徴や社会保険の未払いが発生することも。
» 確定申告を忘れた時|国税庁(外部リンク)
以下は、保険手続きの流れを簡略したものです。
- それぞれの事業所ごとに、社会保険の加入条件を満たしているかの判断を受ける
- 加入条件を満たした日から10日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構へ提出
- 健康保険組合に加入する事業所を選択した場合、健康保険組合への届出も行う
» 兼業・副業等により2カ所以上の事業所で勤務する皆さまへ(外部リンク)
本業と副業の労働条件によっては例外もあるため、保険手続きを自分で行うのは非常にハードルが高いと理解してください。
私の経験上、副業先の経営者に確認するのが一番良い方法だと思います。
後々のトラブルを避けるためにも、あらかじめ確認するようにしてください。
税金の手続きを自分で行う流れは以下の通りです。
- ダブルワークの勤務先から発行される源泉徴収票の確認
- 副業所得に対する確定申告が必要かどうかを確認する
- 確定申告が必要な場合は必要書類を準備・確定申告書の作成
- 確定申告が不必要な場合(副業所得が20万円以下)、市区町村の役所にて住民税の申告を行う
詳しくは後述しますが、ダブルワークにより2つの収入源があると、確定申告を自分で行わなければなりません。
申告期日の間際になって慌てることがないよう、手順を確認しながら余裕を持って準備に取り掛かりましょう。
ダブルワークは確定申告が必要
ダブルワークをする場合、働き方や年末調整の状況により、確定申告が必要となるケースかどうかを自分で判断しなければなりません。
年末調整と確定申告について
- 年末調整
「毎月の給与から源泉徴収した所得額の金額」と「本来なら徴収すべき1年間の所得税額」との差分を調整する仕組み - 確定申告
1年間の所得に対する納税額を計算し、申告・納税する手続きのこと
このように、年末調整と確定申告はいずれも1年間の所得を確定した上で、所得税額を申告・納税する手続きです。
日本では所得税の納税に「申告納税制度」を採用しており、納税者自身が納税額の計算から納税の手続きまで行わなければなりません。
手続きの目的は同じですが、申告期間や控除の種類が異なります。
年末調整と確定申告の違いについて、以下にまとめました。
年末調整 | 確定申告 |
---|---|
主たる勤務先が行う 必要書類 火災保険の控除書 地震保険の控除書 転職前会社の源泉徴収票など | 自分で行う (所得が20万円以下の場合は不要) ※主たる勤務先と別に収入がある場合 必要書類 主たる勤務先の源泉徴収票 副業先の源泉徴収票 ※副業を行っている場合 |
主たる勤務先の収入とは別に、ダブルワークで所得がある場合、主たる勤務先で年末調整をしたうえで自身で確定申告をしなければなりません。
ダブルワークで確定申告が必要になる人の条件
ダブルワークで確定申告が必要になる人の条件は、以下の通りです。
- 給与以外に副業で20万円を超える所得※
がある人(※所得=収入−必要経費) - 2か所から給与所得を得ており、一方は年末調整を受け、もう一方は年末調整を受けていないかつ、給与所得が20万円を超える場合
- 年末調整を2か所以上でしてしまった人
(誤って2か所以上に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出した場合) - 2か所以上から給与所得を得ており、どこからも年末調整を受けていない場合
(2か所以上のアルバイト掛け持ちなど)
ダブルワークで注意すべき税金は2つ
ダブルワークで注意すべき税金は、以下の2つです。
- 住民税
- 所得税
どちらの税金もダブルワーク分の収入に関しては考慮されないため、自分で確定申告し、納税しなければなりません。
- 地方税
・前年の所得が課税対象
・管轄は居住地の自治体(市役所や区役所)
・納税は必須(利益の金額は関係なし)
- 国税
・年間所得にかかる税金
・その年の所得が課税対象。管轄は税務署
・収入のすべてにかかるのではなく、収入
から経費を差し引いた金額にかかる
・利益が20万円以下の場合、確定申告の
必要なし
つまり、副業所得が20万円以上の場合は「税務署で確定申告」を行い、20万円以下の場合は「管轄の自治体にて住民税の申告」が必要となります。
確定申告は自分で行えますが、税務署・公共機関(市町村役場)・商工会議所・税理士などでの相談も可能です。
相談料は民間・公共機関によって異なり、電話相談・対面相談・WEB相談などで対応してくれます’。
税理士による確定申告代行を依頼すると、煩わしさから解放され時間が短縮できる反面、費用が高額になる場合も。
マイナンバーカードがあれば、自宅で確定申告が完結できるのでおすすめです。
» 確定申告書作成コーナー(外部リンク)
確定申告の際に必要な書類を以下の表にまとめました。
必要書類または準備・保存する書類 | ダブルワークの働き方 (得ている所得の種類) | ||
2か所から給与所得を受けている | 1か所から給与所得を受け取っており、それ以外の所得(副収入)がある | 雑所得と事業所得のみ得ている | |
確定申告書 | |||
本人確認書類 | |||
源泉徴収票 | 届出は不要。申告書作成時に使用。 (年末調整を受けている分も使用する) | ||
収支内訳書 | |||
必要経費の領収書 | 届出は不要 | ||
各種控除証明書 | 年末調整で控除を受けた分の控除証明書は不要 |
- 確定申告書
1月1日から12月31日までの年間取得額や控除額とその種類、それらを元に計算された所得税を記載した書類。
» 確定申告書の記載例(外部リンク)
- 本人確認書類
確定申告の際に、本人確認書類として認められるのは、マイナンバーが記載されたもの。
» 番号法令、国税庁告示における主な本人確認書類等(外部リンク)
- 源泉徴収票
1月1日から12月31日までの1年間の給与収入・納付した所得税額・控除額などが記載された書類のこと。 - 収支内訳書
帳簿をもとに1月1日から12月31日までの売り上げや経費などの収入・支出をまとめた書類。
» 収支内訳書(一般用)の書き方(外部リンク) - 収支内訳書
帳簿をもとに1月1日から12月31日までの売り上げや経費などの収入・支出をまとめた書類のこと。
» 収支内訳書(一般用)の書き方(外部リンク) - 必要経費の領収書
経費として計上できるのは、所得を得るためにかかった費用に限られる。
事業や売り上げに関係のない支出は経費として計上できない。 - 各種控除説明書
給与所得のうち控除(経費)として認められるお金のこと。
年末調整※で生命保険料控除・医療費控除・社会保険料控除など、15種類の控除が受けられる。
※雑損控除・医療費控除・寄付金控除の3つは、確定申告時に申請しなければならない。
ダブルワークで注意すべき保険関係
個人の状況によって異なりますが、場合によっては2つの職場で社会保険に加入しなければならない場合もあります(2重加入)。
ダブルワークを行う際の社会保険や雇用保険の加入条件を以下にまとめました。
- 従業員が51人以上の企業
下記5項目すべて満たすと社会保険加入の対象に
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上(年収106万円以上)
- 勤務期間が2ヶ月以上見込まれる
- 学生以外
- 従業員が51人以上の企業に勤務している
- 従業員が50人以下の企業
労使合意の上、社会保険へ加入可能。
- 会社が社会保険の適用事業所である
- 1週間の勤務時間が常勤(正規雇用者)の3/4以上
- 1ヶ月の勤務日数が常勤(正規雇用者)の3/4以上
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
(1つの会社で) - 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる
(1つの会社で)
社会保険の加入条件を満たす場合、ダブルワーク先でも加入しなければならないケースがあります。
雇用保険の加入条件は、1つの会社で満たす必要があるため、複数の会社で同時に加入することはできません。
ダブルワークのメリット・デメリット
薬剤師のダブルワークのメリット・デメリットを以下にまとめました。
メリット | デメリット |
---|---|
収入アップ スキル向上 仕事の多様性 キャリアの幅が広がる 失業リスクの軽減 | 体力・精神的負担 ライフワークバランスの乱れ時間管理の難しさ 法律・規則の制約 税金手続きが複雑 |
複数の職場で働くことで、多様なスキル・経験が身についたり、価値観が広がったりするのがメリットです。
ダブルワーク先とのつながりで、新たなキャリアの道が開けることも。
その反面、労働時間が長くなり、家族や友人との時間やプライベートに割ける時間が減ってしまうのがデメリットです。
メリット・デメリットを理解した上で、自分のライフスタイルにあう働き方を見つけましょう。
ダブルワークで得た収入はどう使う?
ダブルワークで得た収入の使い道は、人によってさまざま。ですが、個人的には以下がおすすめです。
生活費に充てる
家賃や光熱費・食費など、基本的な生活費に充てたり、自分のご褒美として趣味や旅行に使ったりするのがおすすめです。
日常生活が潤うことで、心の豊かさを実感します。
ローンの繰越返済に使うもよし、養育費として貯めるもよし。
長期的な視点で老後の資金として積み立てるのも賢明です。
自己投資
認定薬剤師・専門薬剤師といった、資格取得のために必要なセミナーや学会参加費に使うのもよいでしょう。
仕事がオフの日は、スポーツがおすすめ。
日頃のストレス発散や体力・健康づくりにもつながります。
将来を見据え、MBAなど経営スキルを学ぶための投資に充てるのも悪くありません。
節税対策も考えよう
ダブルワークで収入が増えると、社会保険料・住民税など、差し引かれる税金が増えるのが一般的です。
手取り収入を増やしながら、自己投資・資産運用を進めるためにも、節税対策は欠かせません。
そのため、ふるさと納税やiDeCoなど、節税効果の高い制度を活用しなが資産形成していくことがカギになります。
まとめ
薬剤師のダブルワークの注意点に関する解説は以上になります。
仕事の選び方から、保険・税金関係を中心にお届けしました。
収入アップやスキルアップなど、多くのメリットがある反面、デメリットもあるダブルワーク。
確定申告と保険関係の知識を持っているだけで、本業やダブルワーク先でのトラブルは回避可能です。
国が副業解禁を宣言したことにより、薬剤師にとってもダブルワークをしやすい環境が増えています。
一人ひとりの労働条件・職場環境件などに見合う、あなたのキャリアや将来を明るするようなダブルワークを選びましょう!