公務員薬剤師は、安定した収入や充実した福利厚生が魅力である一方で、初任給が低い・異動や転勤などで生活が安定しないという側面を持ち合わせています。
これらのメリット・デメリットを理解しないことで、理想と現実のギャップに心が折れてしまい、転職を急いでしまう人は少なくありません。
そこで本記事では、公務員薬剤師としてのキャリアを後悔しないよう、年収や仕事内容、メリットなどを解説します。
- 公務員薬剤師としてキャリアを積んだら年収はどうなる?
- 高年収は実現できる?
- 公務員薬剤師として働くことのメリット・デメリットは?
公務員薬剤師の特徴を理解し、より良いキャリアアップを目指す参考にしてください!
コタロ
公務員薬剤師の年収を徹底解説
はじめに、公務員薬剤師の年収について以下の3点を解説します。
詳しくは後述しますが、公務員薬剤師の年収は、経験年数や役職に応じて決まるのが一般的です。
そのため、公務員=安定した収入のイメージは、決して間違いではありません。
しかし、裏を返せば、20代・30代での高年収は期待できないのです。
年収の特徴を知ることは、公務員薬剤師の向き・不向きを判断するヒントになるでしょう。
公務員薬剤師の年収は俸給表で決まる
公務員の給料は、俸給表に基づいて支給されます。
俸給表とは、勤続年数や役職に応じた給与の基準が定められた表のことです。
国家公務員や地方公務員、入職する省庁・行政分野によっても適用される俸給表は異なります。
以下の表は、公務員薬剤師の初任給について一覧にしたものです。
ここでは、公務員薬剤師を薬系技官・麻薬取締官・地方公務員の3つに分けています。
種 別 | 初任給(万円) |
---|---|
薬系技官(国家公務員) | 213,600 |
麻薬取締官(国家公務員) | 198,500 |
地方公務員 | 211,010 |
調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師の初任給は、30万円前後です。
経験年数を積めば、民間企業の薬剤師にも劣らない収入が得られますが、スタートダッシュで負けてしまうのが現実です。
しかし、勤続年数を重ねた分だけ年収は上がっていくため、地道にキャリアを重ねた薬剤師が公務員としての恩恵を受けられるでしょう。
平均年収は?地域や年齢によって違う
公務員薬剤師の平均年収について、以下の表にまとめました。
種 別 | 平均年収(万円) |
---|---|
薬系技官(国家公務員) | 5,147,863 |
麻薬取締官(国家公務員) | 5,764,922 |
地方公務員 | 5,325,046 |
公務員の給与は、俸給表に基づいて支給されますが、次のような諸手当が別途支払われます。
- 地域手当
- 時間外勤務手当
- 住居手当・単身赴任手当
- 通勤手当
公務員といっても、収入には地域差があります。
とはいえ、民間企業の薬剤師と比較すると見劣りするのが正直なところです。
しかし、先述のとおり、公務員薬剤師の収入は経験年数・役職に応じて上がっていきます。
そのため、次長・部長へと昇進できれば、管理薬剤師やエリアマネージャーのような年収800万円クラスの収入を得るのも夢ではありません。
一方で、年収を上げるには一定以上の勤続年数・役職が必要になるため、若くして高年収を目指す薬剤師にとっては不向きな働き方といえるでしょう。
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他の業種との比較
では、公務員薬剤師とほかの業種の年収を比較してみましょう。
平均年収は以下のとおりです。
種 別 | 平均年収 |
---|---|
公務員薬剤師(地方公務員) | 約543万円 |
調剤薬局 | 約588万円 |
ドラッグストア | 約636万円 |
企業 | 約550万円 |
データのとおり、公務員薬剤師の平均年収は、ほかの業種の薬剤師と比べて低い傾向にあることが分かります。
しかし、勤続年数や役職に応じて年収が上がっていく点は、民間企業にはない特徴のひとつです。
後述しますが、福利厚生と退職金が充実している点も、公務員薬剤師の魅力になります。
ライフプランも立てやすく、安定志向の薬剤師向けの働き方と言えるでしょう。
公務員薬剤師の仕事内容は?民間薬剤師との3つの違いを解説
次に、公務員薬剤師の仕事内容と、民間薬剤師との違いについて解説していきます。
この違いを理解しておくことは、今後のキャリアを考えていく上でとても重要になるでしょう。
公務員薬剤師の主な仕事内容
公務員薬剤師の役割は、薬剤師として国民の健康を支えながら、公務に就くことです。
その仕事内容は、調剤だけにとどまらず、医薬品に関するルール作りから、麻薬や覚醒剤等の取締りなど、多岐に渡ります。
- 厚生労働省で薬事行政に携わる
- 薬剤師国家試験の運用
- 食品添加物の管理や安全監視
- 薬物乱用や医薬品の適正使用に関する啓発活動
- 感染症対策や健康増進事業の実施
上記のように、一般的な薬剤師では経験できない仕事ができます。
調剤以外のさまざまな経験やスキルを身につけることは、今後のキャリア形成に大きな良い影響を与えるでしょう。
» 薬剤師の公務員がもったいないなんてとんでもない!年収とキャリアを徹底解説
違い①:休暇や労働時間
公務員薬剤師は、土日・祝日休みで夏季休暇や年末年始休暇も長い傾向にあり、年間休日は120日程度にのぼります。
また、1日の労働時間は8時間に設定されており、残業が発生した場合は、その分だけ残業代が支払われます。
公務員薬剤師 | 民間薬剤師 |
---|---|
土日・祝日の休みが定期的にある 夏季休暇などの長期休暇が安定している 1日の労働時間が8時間 | シフト制の場合、土日・祝日の休みがとりにくい 長期休暇は都度相談が必要 労働時間や勤務時間帯が不規則 |
一方、民間薬剤師の休日や労働時間は職種によって大きく異なるのが一般的です。
ドラッグストア勤務の場合は、土日・祝日の休みが取りにくい店舗もあり、年間休日が100日前後という職場も珍しくありません。
病院勤務の場合は夜勤があるシフト制になり、労働時間が不規則になるケースもあるなど、職種によってさまざまです。
休みが取りやすく、時間外勤務の少ない公務員薬剤師は、ワークライフバランスを優先したい薬剤師にとってこれ以上ないメリットといえるでしょう。
違い②:福利厚生や退職金
公務員薬剤師の福利厚生や退職金は、民間薬剤師に比べて充実しているのが一般的です。
公務員薬剤師の魅力的な福利厚生は主に以下の点があげられます。
- 育児・介護休業制度の充実
- 社宅や家賃補助手当などの完備
- 有給休暇や特別休暇の取得が容易
これらの福利厚生が、公務員薬剤師には約束されています。
公務員薬剤師 | 民間薬剤師 |
---|---|
福利厚生が充実している 定年まで勤めると退職金2,000万程度支給 ※定年退職前でも勤続年数に応じた退職金を支給 | 企業によって福利厚生が異なる 退職金の縮小や廃止をしている企業もある |
民間薬剤師は勤める企業によって、福利厚生の充実度は大きく異なるでしょう。
民間企業では、退職金の縮小や退職金制度の廃止をはじめているところも見受けられるようになりました。
これは、日本の終身雇用制度の崩壊と人口減少による人手不足の深刻化が原因となっています。
薬剤師業界も例外ではなく、自身のキャリアプランに加えて、薬剤師としての将来性も考えなければなりません。
» 薬剤師に将来性がないと言われる理由と価値を高める方法を伝授!
違い③:身につくスキルやキャリア
公務員薬剤師と民間薬剤師で、身に付くスキルやキャリアの積み方は大きく異なります。
主に違う点は以下のような特徴です。
公務員薬剤師 | 民間薬剤師 |
---|---|
薬事行政や公衆衛生など幅広い知識の習得 法規制や政策立案などの専門知識の習得 管理職や特定職へのキャリアップが可能 | 患者や顧客に対しての対応スキルの向上 薬局経営や店舗運営などのビジネススキルの習得 薬剤師の経験を活かしてキャリアチェンジが可能 |
傾向として、公務員はマネージャー、民間企業はプレイヤーとしてのスキル・キャリアが高まります。
自分が身につけたいスキルや、キャリアプランを理解して、どちらの働き方が合っているのかを考えることで、より充実した人生を送ることができるでしょう。
公務員薬剤師のメリット
公務員薬剤師の主なメリットは、以下の3点です。
安定した収入と充実したライフスタイルを目指したいのであれば、公務員薬剤師が最もおすすめです。
収入が安定していて長期的に見て高収入
公務員薬剤師は、先述した通り俸給表に基づいて年収が決まります。
勤続年数を重ねれば、ほぼ確実に収入が上がっていくので、将来の不安は最小限に抑えることができるでしょう。
企業に比べてリストラのリスクも限りなく低いため、安定したライフスタイルを求める人にとっては最大のメリットといえます。
退職金の充実で定年後の生活設計がしやすい
退職金制度が確立されていて、ほぼ確実に退職金を受け取れる点も、公務員薬剤師の大きなメリットのひとつです。
勤続年数に応じて、支給される退職金の金額が明確になっているので、定年後の生活設計が立てやすく、安心して生活を送ることができます。
退職金があることによって、現在の生活の充実感も増すことでしょう。
多様な経験を積むことができる
公務員薬剤師は、転勤や異動によってさまざまな環境での業務を求められます。
転勤先での新しい出会いは、新たな価値観を生み、人生をより良いものにしてくれるかもしれません。
異動先でのさまざまな経験も、スキルとして積み上がっていき、薬剤師として人として成長させてくれます。
このように、多様な経験を積むことができる公務員薬剤師は、自身を成長させてくれるでしょう。
公務員薬剤師のデメリット
公務員薬剤師には、収入の安定や福利厚生の充実など、多くのメリットがあり魅力的です。
しかし、そんな公務員薬剤師にもデメリットは必ずあります。
公務員薬剤師を目指している方は、以下のデメリットに注意しましょう。
将来を見据えて考えるのであれば、公務員薬剤師がおすすめです。
ただし、副業を考えている方や、異動や転勤に抵抗がある方は、再度検討してみると良いでしょう。
初任給は低い
公務員薬剤師の最大のデメリットは、初任給が低いことです。
徐々に年収は上がっていくとはいえ、勤続年数が浅いうちの収入は、他業種と比べて低い傾向にあります。
どれだけ成果を上げても、収入には反映されにくいのが俸給制の仕組みです。
そのため、20代・30代から高収入を狙うなら、公務員薬剤師は不向きといえるでしょう。
副業は禁止されている
公務員の副業は、法律により禁止されています。
家業の手伝いや小規模農業など、許可が得られるケースもありますが、副業を認める例は多くありません。
昨今の副業ブームで、複数の収入源を確保することは、これからのライフプランを計画する上で重要な要素のひとつとなり得ます。
特に、勤続年数の浅い収入が低い時期に、他の収入源を確保する手段が限られることは、大きなデメリットとなるでしょう。
異動や転勤がある
多様な経験が積める一方で、異動や転勤の多さにストレスを感じる場合があります。
異動辞令は2~3年周期で言い渡されることが多く、仕事に慣れたタイミングで別の部署に移るケースは少なくありません。
慣れ親しんだ職場で、安定した人間関係を築きたい人にとって、異動や転勤はデメリットになり得ます。
公務員が向いている薬剤師3選
最後に、公務員に向いている薬剤師を紹介します。
安定した収入を目指したい方や、目標をもって薬剤師を極めたい方には特におすすめです。
ママさん薬剤師
福利厚生が充実している公務員は、ママさん薬剤師におすすめです。
育児休暇は最大3年取得することができるので、育児に専念しながら、子どもの成長を見届けることができるでしょう。
また、有給休暇の取りやすい環境が整っているところも、公務員薬剤師をおすすめしたいポイントです。
子どもの急な体調不良や学校行事などにも参加しやすいため、ママさん薬剤師としては、受けられる恩恵の方が大きい働き方と言えます。
自身のライフスタイルを見直して、挑戦してみてはいかがでしょう。
行政分野に挑戦したい薬剤師
調剤業務や服薬指導など、業務以外の経験を積みたい薬剤師におすすめです。
公務員薬剤師になれば、薬事監視員や食品衛生監視員として、行政分野に携わることができます。
また、厚生労働省や消費者庁などで、政策の立案などにも関わる機会もあるかもしれません。
国の薬事政策に関与するという、大規模なプロジェクトを経験できる可能性があるのが、公務員薬剤師という働き方です。
行政分野に挑戦したい方は、公務員薬剤師という選択肢を検討してみてはいかがでしょう。
環境の変化を楽しめる薬剤師
環境の変化を楽しめる薬剤師も、公務員薬剤師におすすめです。
先述の通り、異動や転勤がある公務員は定期的に新たな職場で、さまざまな業務をすることになります。
その度に訪れる人との出会いを通じて、より多くの価値観と触れる機会が増えます。
新たな業務で培った経験やスキルは自分の財産です。
人との出会いやさまざまな経験を重ねながら、環境の変化をチャンスと捉えられる薬剤師にとって、公務員薬剤師は成長の機会を与えてくれる絶好の働き方と言えるでしょう。
まとめ
公務員薬剤師は初任給は低いですが、安定していて長期的には高年収を目指せる職種です。
退職金制度も充実していて、勤続年数を重ねるごとに、生活の満足度と定年後の安心感は増していくことでしょう。
一方、副業の禁止など、若くして資産形成をすることは難しい働き方でもあります。
勤続年数が浅い時期ほど、同世代の民間薬剤師の人と比べ、低収入となってしまう傾向にあるようです。
この記事で紹介した、公務員薬剤師の働き方の特徴やメリット・デメリットを参考にして、自分のキャリアプランをもう一度考えてみましょう。
もし、公務員薬剤師の働き方や特徴が自分に合っていないと感じたら、転職もひとつの選択肢として検討してみることをおすすめします。
働き方に正解はありません!
自分に合った働き方で、理想のキャリアを歩みながら、薬剤師として充実した日々を送りましょう!